3年間住んだ街を離れる。

夜散歩した海が見える公園も、
いつも美しい葉を茂らせていた並木道も、
赤いネオンが並ぶ異国のような商店街も、
今日でお別れ。

広くて静かな部屋にいるとき、汽笛が聞こえた。
ここは夜でも明るかった。
真夜中に窓を開け放して月の光だけで過ごした。

初めてこの部屋に入ったとき、
私はどんな気分でここを出て行くのだろうと想像した。
今、そのときの事を思い出している。
一つの円環が静かに閉じた気分。
想像どおりだ。

3年間の日記を読み返す。
まるで他人が書いたようだ。
それでも3年前に選んだのと同じ気分を今感じている。

次の部屋は、どんな出て行くときの気分を選ぼう。

いつもの喫茶店でひとりでコーヒーを飲みながらお別れ会をした。

さようなら。

この世に変わらない物なんて何もない。
全てが一時的で全てがこの手から零れ落ちていく。

それでも私は欲しいものを手に入れたい。
いつだって、自分で選んだ気分だけを感じたい。

さようなら。
今までどうもありがとう。